会員の雑感(6)

     地図ロイドとオフライン地図

 散歩の友の一つとしてスマホのことを書いた。そこでは、 下見里山で道に迷った場合の手助けにスマホを活用しようとしている。 個人的には下見里山と3年以上も付き合っているので、もう迷うことはないが、 考え事をしながら歩いているので意図しない道に入り込むことは時々ある。 そのようなとき、自分が山のどの位置にいるか確認できると安心である。 このためにMAPS.MEというアプリを入れていた。 記事中の図をご覧になると分かるように、山の部分は単一色で表示されている。 これは元になっている地図 OpenStreetMapのデータがそのようになっているからで、 ボランティアが作成され無償公開されているものに山のデータまで求めるのは無理というものである。
MAPS.MEの良いところは地図をダウンロードしてスマホの中に保存できる点である。ダウンロードした 地図はオフライン地図として使える。これに対し、スマホでgoogle mapを表示する場合は、 インターネットを通じてその都度必要な地図を取得しなければならない。この状況はカーナビのことを 考えると理解しやすい。カーナビは全国の地図を機器本体に保存しているので、自動車で走行する場合、 GPS信号さえ受信できれば、取得した位置データ付近の地図画像を保存データから取り出せる。 スマホ(google mapなど)をカーナビ代わりに使うことも出来るが、スマホがGPS信号を受信したとき、 その位置に対応する地図データをその都度インターネットを通じて 取得しなければならない。もし、自動車が 人里離れたところを走り、携帯信号が切れるようなことがあったら、スマホ画面には何も表示されない。 カーナビはGPS信号さえ受信できれば自動車を安全に誘導できる。
google mapのようなインターネット地図にも長所はある。それは地図が頻繁に最新状態に更新される ことである。カーナビの地図は(メーカーの保証があっても)手動で地図を最新のものに更新しなければ ならない。山で使う場合にはオフライン地図の方がインターネット地図より有利なことは明らかである。 山の中にはコンビニができることはないし、区画整理により道が変更されることもない。問題は元となる地図である。 人家があるところではOpenStreetMapが使えるが、山中の地図は基本的に国土地理院の地図、あるいは 航空写真くらいしか無い。国土地理院の地形データを加工して3D地図データのようなものを作ることは 可能である。
私のような高齢者は近場の里山を散歩するだけなので、本格的な山歩きツールは必要としない。 当面はMAPS.MEで単色表示される山部分に等高線が 少しでも入れば満足である。このような細やかな高齢者の要求を満足させるアプリはないかと 暇に任せてインターネットで検索したら「地図ロイド」というものが見つかった。 地図ロイドの良いところはオフライン地図が使えることである。この点は私が求める第一の 条件に合致している。インターネットで更に検索を続けると、このアプリは山登りの 人が主に使っておられるようである。これで地図ロイドは私の求めているものであると確信した。 残された仕事はオフライン地図を 準備することである。早速に国土地理院の地図(我々のHPでの表示に使っている地図)から 下見里山の部分を切り出してオフライン地図を作成してみた。私が行った方法は ここに書いてある。出来上がったオフライン地図 のbmpファイルとHDRファイルをスマホの適切な場所にコピーする。次にスマホで地図ロイドを 起動し、[メニュー]->[地図操作]->[カスタム]->[OK]->[地図操作]->[読み込み]と操作していけば 作成したカスタム地図を地図ロイドに取り込むことが出来る。
国土地理院の地図から切り出したオフライン地図を地図ロイドに表示してみたが、やや期待外れ であった。この地図は1/25,000の縮尺に基づいているため等高線が疎であり過ぎ、MAPS.MEで表示した ものより多少はマシという程度だった。そこでQGIS の出力を使うことにした。QGISというアプリはシェープファイルを読み込み、表示するという 基本的な機能に加え、有用なプラグインが付属しており、国土地理院で公開されている 5メートルメッシュの標高データを取り込み、これに基づいて等高線を任意の密度で表示できる。 更に、注目点(POI)も表示できる。こうして出来上がったカスタム地図をbmpファイルに変換し、 国土地理院の地図からカスタム地図を作成したのと同じ要領でカスタム地図を作成し地図ロイドに 取り込む。
下見五座のカスタム地図を作成し、地図ロイドに取り込むことができたので実地テストを行った。 テストの実施場所は、私が愛してやまない八幡山である。私の散歩コースを歩き、八幡山山頂 付近で地図ロイドを動作させたときの画面を図に示す。現在地を示すカーソルが見事にカスタム地図の 山頂の上にある。スマホ画面を指で広げれば拡大表示も出来る。地図ロイドは 私の散歩の友の有力な一員となった。
私がカスタム地図に拘ったそもそもの着眼点は、携帯信号が切れたときでも安心して地図を表示できる点にあった。 ところが、実際にカスタム地図を作成してみて、長所はそれだけではないということが分かった。散歩道には いくつかPOIがあるが、これを自由に地図上に配置できることはカスタム地図の大きな利点である。 更に、等高線の密度を自分の好みに合わせて制御できる。図の例は等高線を1メートルおき (1/25,000の地図では10メートルおきが多いようである)に表示させた 例であるが、この密度で等高線を表示すれば尾根線、谷線などが良く分かる。 カスタム地図は使用者の希望に 沿った形で作成できるというのが究極的な利点である。
カシミール3D, QGIS (以上、パソコン)、地図ロイド, MAPS.ME(以上、スマホ)という無償の4種類の アプリ、およびこれらの使い方をインターネット上で公開しておられる諸氏に心より感謝する。 感謝を胸に今後とも積極的に下見五座を散歩する所存である。

     二神山はコイの山

二神山周辺を散策するときはコイの予感がし、それが成就することもあると 以前書いた。しかし当該原稿を書くときに 多少の躊躇いがあった。実を言うと原稿執筆時に行われていた温井川の 災害復旧工事(133)が行われた後、鯉の成就は ほとんど実現しなくなっていた。原稿を書いた後も何度も温井川に沿って歩いていたけれど、鯉を 見ることはなかった。これは原稿を修正しなければならないかと思いつつ、2024年の7月上旬にも 二神山散歩コースに出かけた。2024年の夏も猛暑で、テレビではこの日も不要不急の外出は しないように言っていたが、私にとっては有用不急の外出なので、午前中に散歩に出た。
私の現在の二神山散歩コースでは温井川沿いの二神山から遠い側の道をまず南下する。この道沿いに 前回の散歩のときには災害復旧工事の案内掲示が未だ残っていたが、 この日はこれも撤去されており、完全に工事が終わったのだと思った。順調に温井川に 沿って南下し、南端の橋(132)を通過し、 大学生協所有の田んぼを迂回して 二神山に向かって北上する温井川沿いの道に入った。北上を続けるといつものように 堰の所に出て、竹やぶに入る。ここからが鯉の予感を試す場所である。
この日はいつもにも増して温井川の川面を観察した。竹やぶの中を何度も川岸に向かって 歩き、鯉を探した。その甲斐あってやっとのことで二匹の鯉を見つけたときは安堵した。 緋鯉のようには目立たないが、灰色に近い二匹の鯉だった。大きさは十分であったので もし「番い」ならば頑張って子孫を残してほしい。これで原稿を修正する必要が無くなったと判断した ことは言うまでもない。
竹やぶを川に沿って北上し、やがて竹やぶを離れ、温井川の中に岩や小さな滝を見ながら北上する のはこの記事のルートと同じであるが、 温井分岐のところで私の散歩コースでは山頂への道を辿る。高圧鉄塔に沿うように進み、 二神山周回路に出たところで右折してしばらく歩くと、山頂へ向かう道が左手に見える。左折して この道に入ると山頂まで分かりやすい道が続く。山頂の手前には良く整備された階段と手すりとが ある。8月末になるとこの付近で多くのミンミンゼミの鳴き声を聞くことができ、秋が近いこと を知るが、今はまだ猛暑の入口である。階段を登り切ると二神山の山頂で、東方向が開けており、 通常はここで小休止する。この日は様子が違った。大学キャンパス方向に置いてあるベンチの 横で若い男女が至近距離でお互いの目を見ながら向かい合っていた。二神山山頂で人に会うのは 珍しいことではないが、この日は心の準備もできないような状況だったので、小休止することなく、 反射的に現場を立ち去った。
登ったばかりの整備された階段を降りたところで立ち止まり、この感動をやまみちの会のライングループ に書き込んでいたら、件の男女も階段を降りてきた。「見られてしまってからには 生かしてておけぬ」という文言が頭をよぎり、やや身構えたが、近くで見ると理知的で 柔軟そうなのでこちらから声をかけた。攻撃は最大の防御である。具体的にはもちろん 我々のHPの宣伝である。私は熱心な広報担当を自認している。興味を持たれたようなので、 女性の方に二神山に来られた理由を伺うと、「運動不足を解消するため」だそうだ。 「素晴らしい!二神山は他の4座とともに貴方のような方を特に歓迎する」と心の中で 思ったが、口には出さなかった。しばらく立ち話をした後、私はライングループへの書き込みを 継続し、二人は先に下山なさった。
二神山頂上から階段を降りた所で道は3つに分かれる。大部分の人は真っ直ぐに進み、 別の階段を登って西のピークの方へ向かう。これがメインルートである。残りのほとんどの 人は右方向に下り、矢が谷池のそばを通り、大学キャンパスの方向に歩く。私がライングループ への書き込みを終えて下り始めると二人は右の道をとられたらしく、迷ったと言いながら、私のいた位置まで 引き返して来られた。私はメインルートを行くのでご案内しましょうというと、何と二人は 最も利用されていない(私が登ってきた)左の道へと進まれた。そこは温井川に向かうが 大丈夫かと確認したが、それで間違い無いと下山なさった。このとき確信した、この恋は成就すると。
二匹の鯉、仲の良さそうな二人、二神山と弐づくしの一日だった。そう言えば明日は七夕、二神山 はロマンの多い山だ。熱中症に注意を払って猛暑に負けず二神山にこられたらきっと良いことがある。

     下見五座を抱く

今年の夏も猛暑だった。雨がほどんど降らなかったので、二日に一度の私の下見里山散歩も ほぼ計画通りに実行できた。今は8月の後半で未だ猛暑は終わったわけではないが、天の恵みか この日は時々小雨が降り、気温も30度を下回った(ような気がした)のでガガラ山から鏡山を 歩く予定を変更し、曾場ヶ城山中腹の舗装道路(以下、中腹路)を歩いてみることにした。 路面が濡れているときにはアスファルト道の方が歩きやすいからだ。 このルートは私の 里道散歩コースの一つで、心が下見里山に完全に絡め取られる前にはよく歩いていた。
ここで中腹路について簡単に書く。曾場ヶ城山は人気のある山で地元以外からも 多くの人が登られるようである。JRの八本松駅を利用される方が多く、駅を離れて南に歩き、 横断陸橋で国道486号線(旧国道2号線)を横断し、更に南下を続けるとやがて曾場ヶ城山の 端が見えてくる。直ぐに山に登りたいと思うかもしれないが、少し我慢して県道南下を続けると やがて国道2号線(旧2号線バイパス、ああややこしい)の高架下を通過する。すると進行方向に 向かって右に舗装された山道があるのでこれを登る。ここが中腹路の起点である。少し進むと ポンプ場があり、ここで車止めがしてある。工事関係者以外は中腹路に車両で乗り入れることは できない。登山者や散歩者にはその方が都合が良い。中腹路を進むとやがて右手に曽場が場登山口 を示す立派な看板があるので、登山者はここから登山開始である。散歩者は登山口を無視して舗装道路を進む。 中腹路は3キロ余り、小倉神社入口まで続いている。終点付近にも車止めが設置してあり、 万全の体制である。終点手前には小倉名水があり、喉を潤すことができる。
私の散歩コースでは中腹路を逆に(西から東に)進む。曾場ヶ城山は2018年豪雨の影響を まともに受けた。豪雨の後に曾場ヶ城山には大きいものだけでも10本以上の土石流による亀裂が 残された。土石流は山頂に通じる尾根線よりも少し下の方から発生するので、曾場ヶ城山の 尾根線を歩いても土石流跡はほとんど見かけないが、中腹路は全ての土石流を引き受け、 豪雨の後には中腹路はズタズタに寸断された。豪雨から半年経った頃、私はこわごわと 中腹路散歩コースの下見をしたが、大きな亀裂は幅が20メートル以上、深さも10メートル以上 あって断崖絶壁のようになっており、復旧は不可能、もしくは長期を要すると見た。 それでも中腹路を歩いてみたい気持ちが治まらず、土石流跡を迂回して小倉名水から 中腹路の入口(国道2号線の高架下付近)まで何とか歩いてみたいと、散歩か冒険か 分からないようなのを週イチで繰り返した。小さな土石流跡は下に降り、大きな土石流跡は 山側に迂回するという方式であった。5回目くらいの挑戦でやっとのこと全区間を通過できた ときは本当に嬉しかった。
一度ルートを開くとあとは少々過酷な散歩ルートとして週イチで歩いた。豪雨直後は小倉名水 も完全に埋まってしまい、これで名水もおしまいかと思ったが、豪雨から1年後くらいに 小倉名水が復旧しているのを見て感動した。その後しばらくして役所の関係者と思われる 二人が土石流跡調査をなさっているのに出会った。私は調査して終わりだと思っていたら その半年後に小さな土石流跡の復旧作業が始まっているのを見てまた感動した。散歩中に 出会った工事関係の方に「復旧には10年はかかるでしょうか」と訪ねたら、1年後には 終わる予定だと聞いて腰を抜かした。半信半疑だったが、本当に1年後にはほぼ復旧が 終わり、更に1年後にはきれいに舗装がなされ、更にその1年後には付帯工事としての 最後の砂防ダム建設が終わったのを見て、土木建築技術の高さに感動したのを今でも 覚えている。
土石流は多くの被害を曾場ヶ城山にももたらしたが、お土産を残すことも忘れなかった。 それは遠景である。山歩きをしているときの楽しみの一つは遠景を楽しむことであろう。 中腹路に沿って、豪雨前には見られなかった景観を散歩の楽しみに加えてくれた。 曾場ヶ城山を南側から見ると中腹に白いガードレールが2つ見える。本当はもっと あるのだが、この2つが目立つ。このガードレールは土石流による亀裂を修繕した後に 設置されたものである。以前は無かったものだが、これらのガードレールのお陰で 中腹路が山のどのあたりにあるのか良くわかる。写真は2つのガードレールのうち 山の南側からみて左側(西側)にあるもの(34.428062N, 132.675072E) の位置付近で散歩中に何気なく撮影したものである。撮影した理由は下見5座すべてが 見渡せたからである。この景色も土石流跡の置土産であると言える。
家に戻って改めて写真を見て思った。下見五座が撮影位置にある窪みにすっぽりと 抱かれている。HPのメインページには曾場ヶ城山頂上付近(正確に書くと本丸跡)から見た 下見五座の写真を掲載しているが、この撮影位置は標高が600メートル程度あり、上から目線 で下見五座を見ているが、今回の写真の撮影位置の標高は350メートル程度で、下見五座の 起伏がより良く見える。下見五座を詳細に見てみよう。左から右に(東から 西に)眺めることにする。一番初めに見えるのは八幡山である。頂上も良くわかる。 八幡山の次には八陣通りを挟んで陣が平山が見える。この山の頂上も確認できる。 陣が平山頂上のすぐ右には明確な頂上がある。これは鏡山の頂上である。更に その右にはガガラ山の頂上が見て取れる。ガガラ山の頂上は他に比べ、それほど 明確ではないことも知らされる。山並みはキャンパスに向けて降下し、やがて二神山 へと至る。目印になる運送会社の倉庫の上のピークは二神山の東のピークで右に進むと 鏡山のピーク並に明確な頂上が見える。これが二神山頂上である。記号で書くと 東から西へ HJKGFと下見五座の頂上が重なり合うこと無く綺麗に並んでいるのがわかる。 この位置に良い名前を付けたいがいいのを思い浮かばない。当面は HJKGF展望所とした。

これらの頂上を毎週歩いている自分は、いくら動いてもお釈迦様の手のひらから抜け出せない 孫悟空のようなものだと写真を見て感じた。偶然撮った写真であるが、一生の宝になった。 下見五座の中を歩き回るのも良いが、たまには遠くから散歩道を観察するのも楽しい。

元の場所に戻ります。